映画化も決まった蜜蜂と遠雷!風間塵のモデルは?収録曲やストーリーについて本音で紹介
10月に映画も公開される「蜜蜂と遠雷」。風間塵のモデルは(?)という疑問について、また、根っからのクラシック音楽ファン&ピアノ弾きの視点からの、読後の感想と良かったポイントをまとめてみます。
今まで英語やバイリンガル子育てなどにテーマを絞っていましたが、少しずつ音楽関連の記事も増やしていけたらと思います。
- 以前より話題になっていたにも関わらず読まなかったワケ
- 実際には、ピアニストの心の動きに焦点があてられた話だった!
- もっとも心惹かれたポイント(この話のテーマは?)
- 個人的に気に入ったプログラム
- 風間塵のモデルは?
以前より話題になっていたにも関わらず読まなかったワケ
二年程前に受賞して話題になっていた蜜蜂と遠雷。もっと早く読もうと思えば読めたのですが、手を伸ばすことはありませんでした。
理由は「ピアノコンクール」を扱った物語だったからです。
蜜蜂と遠雷のなかでも触れられていますが、音楽・芸術は順位をつけられるようなものではありません。
ショパンコンクールのビデオを観て楽しむことはあっても、それに順位をつけるということそのものは、ちょっと共感できない部分があります。
生活の中でも、普通のピアノを習っている子供がピアノコンクールのための練習をさせられて、ピアノや音楽を嫌いになることは本当によくあります。
「音楽を愛する」ことや「音楽と共に生きること」と、「音楽コンクール」は、似ているようで全く逆の方向を向いているような気がします。こうしたことから、話題にはなっているけど、読みたくない、そんな感情を抱いていました。
手に取って読んだわけ
非常に短絡的ですが、10月に映画が公開されるという情報を得たからです。
実際に活躍しているピアニストの音を使った映画とのこと、話の内容はどうであれ、この「演奏を聞きたい!」という衝動に駆られました。
筆者の今までの経験上、小説が映画化されたものを観ると、必ず活字を読んで確認したくなります。「コンクール」というテーマが若干気になりますが、夏以降忙しくなることを考えると今読んでおきたいという理由でした。
実際には、ピアニストの心の動きに焦点があてられた話だった!
おもに4人のピアニスト(コンクール受験者)に焦点を当てたストーリーになっていますが、コンクールの順位を競うだけの話ではありませんでした。
「コンクール」の話だから嫌だと思っていた筆者ですが、話を読みはじめてすぐにその気持ちは消えました。
ストーリーを先に読み進めたくなるような面白さ(結果が気になる)はもちろんあるのですが、「順位」が最重要視されているわけではなく、どちらかというと4人受験者 の「心の動き」のほうに焦点があてられていました。
どうしてピアノを弾くのか
どういう演奏をしたいのか
というのが、4人それぞれに違います。天才的な才能を持つ人が多く登場しますが、心の動きのひとつひとつには、読んでいる人にも共感できる部分がたくさんあります。
語り手も次々と変わっていくため、 4人それぞれに感情移入しながら読んでいけます。
使われている音楽にまつわる表現がとても素敵で、筆者は途中から、鉛筆でところどころマーキングしながら読みました。
こんな衝動に駆られた小説は、本当に初めてです。
もっとも心惹かれたポイント(この話のテーマは?)
有名な小説ですので、ただのあらすじは巷にあふれているため省略します。
個人的にこの小説でもっとも心惹かれたところは、
「元ジュニアピアニストの亜矢と、驚異な才能を持つキーパーソン風間塵(ジン)の対話」です。
対話といっても2人で話すわけではなく、風間塵の演奏を聴いている亜矢が、心のなかで対話するのです。
第二次予選では即興演奏を加える部分(カデンツァ)があるのですが、亜矢は譜面には起こさず本当に即興で、塵の演奏に対する応答をします。
その他の部分でも亜矢の演奏はほぼ風間塵の演奏に対する応答として描かれていて、この部分を読んでいると本当に、音楽ってイイナと思えます。
コンクールの順位がどうこうなんて、読んでいると本当にどうでもよくなってきます。
塵は偉大な亡き師匠と「音楽を外に連れ出す」約束をしているのですが、小説のなかで見事に果たしていると感じました。
それが最終的に、コンクールの結果や、コンクール後の話の流れにも見事に反映されています。
この話のメインテーマは「音楽を外に連れ出すこと」=「コンクールや順位などの形にとらわれない音楽をすること」なのかなと個人的に思いました。
一見矛盾しているようで・・・ものすごくよく考えられたストーリーでした。
もっと早く読めばよかったと思いました。
個人的に気に入ったプログラム
コンクールのプログラムもかなりリアルに作られていて、音楽好きな人であればプログラムをみるだけでも楽しめると思います。
個人的にもっとも面白いと思い、印象に残ったのは
第三次予選での風間塵のプログラムです。
サティ Je te veux
メンデルスゾーン 無言歌より春の歌
ブラームス Capriccio Op. 76-2
ドビュッシー 版画
ラヴェル 鏡
サン=サーンス アフリカ幻想曲(コンチェルトのオリジナル編曲版)
Claude Debussy: Estampes - Rafal Blechacz
おしゃれな曲が盛りだくさんですよね。
ドビュッシーの版画、これを風間塵が弾いているところを想像するだけで鳥肌が立ちます(笑)
しかも、物語の中ではJe te veuxをまるで持続低音のモチーフであるかのように、曲と曲の間に部分的に組み込んで弾いています。
このJe te veuxの使い方や、コンチェルトのオリジナル編曲など、実際のコンクールではありえないと思いますが、だからこそ、こういったプログラムがもし本当のリサイタルであったら素敵だなぁと思いました。
風間塵のモデルは?
この物語の最重要人物といえる風間塵は架空の人物ですが、ラファウ・ブレハッチ(2005年のショパンコンクールで優勝したピアニスト)のエピソードなどをもとに考えられたようです。
実際のピアニストに風間塵のような人はいるのかな?と考えたとき、なかなか思いつきませんが、まだ幼さの残るころのダニール・トリフォノフなんて結構近いかも?と思いました。
Trifonov plays Liszt's Transcendental Études in Lyon France
物語のなかでの設定がすごすぎて、風間塵のようなピアニストはなかなかいないのかもしれませんが、そんなふうに心と身体をつかまれる演奏に出会ってみたいですね。
これから読む方には、読み進めやすい文庫版がおすすめです。